推しが近所に住むなんて聞いてません!

「ほらな。ファンじゃなかっただろ」と言いながら猫屋くんにニコリと言い聞かせるマスター。

「すみません。こいつ口は悪いんですけど、君にお礼を言いたくて一週間待ってたんすよ」とニヤニヤしながら、マスターが言う。

「…黙れ。」と猫屋くん。見たこともない怖い顔でマスターを睨みつける。

「でもまあ命を救われたのは事実なんでね。お礼を言うのは人間として当たり前だろ。..俺、猫屋歩夢って言います。一応トップアイドルなんで知っておいた方がいいと思いますよ。世間知らずだって笑われますから。」

ああ、やっぱり猫屋くんだ。どれだけ、性格が変わったように見えても、真面目さは、アイドルの「猫屋くん」と同じだった。

「あー..えっと私は、桜田由美子です。普通のOLです….えー歳は27歳で…」

猫屋くんがブッと吹き出す。

「歳自分から言っちゃう!?オバさんウケるわ(笑)」

オバさん!?私まだ27歳なんですけど!?そりゃあ仕事で疲れてやつれているし、あなたに貢ぎすぎているせいで、服も美容にもお金使えてないからそりゃあ老けてるかもしれないけど、おばさんって…つい頭にカーと血が登って

「もう帰ります!」
と言い放って、ずんずんと家に帰った。

「え、ちょっと…!」という声が後ろから聞こえたものの、頭には入らなかった。自分が今どんな感情なのかわからない。急展開すぎて頭がおかしくなりそうだ。猫屋くんの素が悪魔すぎたから?思わず猫屋くんを知らないと嘘ついてしまったから?誰よりも好きな推しにオバさんと言われたから?...それでも、猫屋くんに近づけるなんて夢見たい…!と思ってしまう自分もいる。

「明日も仕事か。早く寝よう。」

こう言う時に仕事があるのはありがたい。余計なことを考えずに済むからだ。
猫屋くんグッズだらけのこの部屋ではなんだか落ち着かないので、真っ直ぐシャワーへ向かい、すぐに灯りを消して寝た。
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