眠る彼女の世話係(改訂版)
「……で?」

 いつもより随分と豪華になった天丼を頬張る俺に陽太は尋ねる。

 どこから話せばいいものか、と悩みながらもぽつりぽつりと聞いたことを話していく。

 飲んでいた薬は睡眠薬であったこと、彼女の家族はすでに亡くなっていること。大した話もできていないから、その話のほとんどが俺が推測したものになっていたが。

 ーー死にたいんだよな、あの子は。

 その言葉は喉の奥にひっかかって出てこなかった。

 
 箸が止まって黙った俺を2人は見つめている。そんなどうしようもない沈黙を破ったのは陸斗だった。

「夏樹読むかなって思って持ってきたんだけど……七野りるはの小説」

 テーブルの上に置かれた小説のタイトルは、参考書を買いに行った書店のおすすめコーナーでさらっと見た気がする。
 綺麗な表紙に印刷された『七野りるは』の文字はどこかきらきらと輝いて見えて、今の彼女の雰囲気とは似ても似つかなかった。

「俺小説とか読まないから結構時間かかるかもだけど……それでもいい?」

 昔から、大量に並んだ文字を見るとどうも眠くなる性質のようで、読んだ小説といえば読書感想文の本くらいだっただろうか。参考書でさえなるべくイラストや図が多用されたものを選んでいた。

 読みきれるだろうか、そんな不安もあった。でもその物語を読めば彼女の考え方だとか、そういうものも少しは分かるかもしれない。

 陸斗はうん、と言ってリュックの中からさらに数冊取り出す。

「これが一番最初のやつで、次のが上下巻あるちょっと長めの物語でーー」

 陸斗は目を輝かせながら机に並べた小説を紹介していく。
 とある一冊の小説で手を止めて、優しく表紙をなぞった。

「『リリアとリュカのしあわせのかたち』……?」

 それは他の小説より随分と、幼い子供向けの小説のように思われた。

「これ一応児童書なんだけどさぁ……」

 陸斗はふふっと笑う。

「内容が内容で重すぎて、あんまり子供ウケしなかったんだよね」

 さっきまで他の小説をぱらぱらと読んでいた陽太がスマホの記事を見せてくる。

「これか」
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