Drive Someone Nuts
 高校生の時初めて告白してくれたのは隣のクラスのなんの関りのない人だった。クラブも違う、クラスも一緒になったことがない、とりわけ目立たない私を知っていることすら不思議だったくらいで。どう断ろうかと考えあぐねていると、彼の友人がわらわらと何処からともなくでてきて「頼むよ」なり「いいやつなんだよ」とぐいぐいと来るものだから頷いてしまったのだ。

 彼氏になったその人と接していく中で理想の彼女を強要するようになる。ちょっと髪型を巻いてほしいとか、手を繋いでほしいとかお願いベースだったものがしていなかったら怒鳴る様になっていた。ちょっとずつ好きになっていこうと思っていたけれど、怖いがかってしまい彼の望み通りのことをすることで自分の心を守っていた。

 キスしたい、と言われれば口を重ねた。
 それ以上も。

 一度父親に聞いてみたのだ。女が無理して笑ってたとして気付けるか、って。父親は苦り切った顔をして「だとしたら今、啓子がどっか行ってない」と言ってまた酒を探しに冷蔵庫を漁りに行った。その弱弱しい姿を見てなるほどと思った。後から思い知らされてこんなにもダメージを負っているのか、と。啓子は私の母親で離婚届を置いてつい二年前くらいに出ていったのだった。生きているのか死んでいるのかわからず、便りもない。せめてものの反抗で父親は離婚届を出していない。父親は母親を愛しているらしかった。なぜ父親にこんなこと聞いたのか。彼氏とそっくりだったからだ。
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