残念姫、王子に溺愛される
“そのジャケットがあれば、僕達はまた会える”

そうは言ったものの、彼女は会いに来てくれるのだろうか……?

「名前、聞いておくんだった……」

あの時、真田に呼ばれて急いでいたのもあるが、また会える気がして名前などを聞かなかった歩稀。

今更後悔していた。

グラスを片付けていた時から目が離せなかった。
目が合って、息が止まったように動けなくなって、一気に己の全てが奪われた。

“彼女に会いたい”

そして、その気持ちだけに支配されていた。


――――――こちらから会いに行こうか。

“給仕係にぶつけられ、飲み物をかけられた令嬢”と言えばきっと誰のことかわかるだろう。

そう思い、部屋を出ようすると………

「歩稀様、お客様ですよ」
真田がちょうど、ノックをして部屋に入ってきた。

「誰?」

「姫乃原様です」

「HI-MEグループの?
姫乃原が何の用?」

「姫乃原 恋羽様。
先日のパーティーで、歩稀様が手当てをなさった方です」

「……………お前、彼女が姫乃原の令嬢って知ってたの?」
  
「え?えぇ。
それが何か?」

「………いや、別に」
(もっと早く言えよ…)

首を傾げる真田を怪訝そうに見ながら、歩稀は部屋を出て応接室に向かった。

部屋に入ると、恋羽が立ち上がり丁寧に頭を下げてきた。
「こんにちは!」

歩稀は真田に「二人にして」と言って、恋羽の向かいのソファに座った。

「どうぞ、座って?」
歩稀が座るように促すと、恋羽は再度丁寧に頭を下げ腰掛けた。

「先日は、本当にありがとうございました!」

「手、大丈夫?」

「はい!お陰様で!
あと、ジャケットもありがとうございました!
お返しするの遅くなり、申し訳ありません!」

そう言って紙袋をテーブルに置き、もう一つ小ぶりの紙袋を隣に置いた。

「あと、これは○○のチョコレートです!
聖王様、お好きだとうかがったので!」
そう言って微笑んだ。

「わざわざありがとう!」
歩稀も微笑むと、恋羽は照れたように顔を赤らめた。

「あ、あと…
先日、名前も名乗らずに申し訳ありません。
私は姫乃原 恋羽と申します!」

「聖王 歩稀です!
フフ…正直、びっくりした(笑)
君が姫乃原の令嬢だったなんて!」

「あ…私、カゲ薄いので…地味だし…
よく、びっくりされます……(笑)
先日のパーティーでぶつかられたのも、私のこと認識されてなかったからだと思います……」

自嘲気味に笑う恋羽を見ていると、歩稀は悲しくなっていた。



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