冷徹大臣の雇われ妻~庶民出身成り上がり女官の次の就職先は伯爵夫人ですか~
「今から私はコイツと騎士団の視察に行かねばならなくてな。時間がないんだ」
「承知いたしました。こちらは財務大臣のほうにお届けすればよろしいでしょうか?」
「あぁ、頼むよ」

 深く頷いたセレスタンを見て、リリアンは頭を下げる。

「それと、カンディードのやつには書類は明日受け取りに行くと言っておいてくれ。私は今日一日戻らないからね」
「承知いたしました」

 カンディードとは、現在の財務大臣の名前である。齢二十七にして大臣の立場を持つ、見た目麗しい男――というのが周囲の評価だ。

 リリアンはもう一度頭を下げ、セレスタンの執務室を出て行こうとした。

 だが、出て行く寸前で呼び止められる。

「リリアンに言うのもなんだが、最近王宮はきな臭い。気をつけなさい」

 それは一体どういう意味だろうか……?

「私は庶民ですよ?」
「だからといって警戒しないというのはやめたほうがいい。特にリリアンは警戒心が薄いのだから」

 まぁ、それは真実なので反論できない。

「この状況もいつまで続くものだろうな。内部のごちゃごちゃほど面倒なことはない」

 セレスタンが大きなため息をつく。彼の言葉にリリアンは全面同意だ。

(このまま内部崩壊――にならなかったら、いいけど)

 リリアンにはそう祈ることしかできないのだ。
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