冷徹大臣の雇われ妻~庶民出身成り上がり女官の次の就職先は伯爵夫人ですか~
「少し待ちたまえ」

 声をかけられ、リリアンは動揺した。

 今まで、リリアンがカンディードに声をかけられたことは一度もないためだ。

「キミにいくつか質問がしたい」
「はい。どういう――」
「個人的なことだ。今日の終業後、ここに来てほしい」

 抑揚のない声だった。リリアンは怪訝に思うが、顔には出さない。

「私は構いません。ですが、個人的なこととはどういうことでしょうか?」
「言葉のままだ。キミ個人に質問、および話がある」

 青の双眸が細まる。まるでこちらを吟味しているようで、居心地が悪い。

「とにかく、キミは約束通りここに来てくれたらいい。話は終業後だ」

 勝手に引き留めたかと思うと、彼は一方的に話を打ち切った。

(この人、結構身勝手ね)

 と思っても、逆らうことはできない。こちらはただの女官だ。大臣クラスに逆らうと職を奪われかねない。

「承知いたしました。私の仕事は六時に終わりますので、諸々の要件を済ませ六時半にこちらに来ます」
「わかった」

 自分も伝えたいことだけは伝え、リリアンは財務大臣の執務室を出て行った。

 廊下に出ると、自分の心臓が大きく音を鳴らしていることに気づく。

(一体どういう風の吹き回しかしら? あの『冷徹大臣』が私を呼び出すなんて――)

 リリアンは眉をひそめた。しかし、どれだけ考えたところで、今の段階で答えは出そうにないのだった。
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