冷徹大臣の雇われ妻~庶民出身成り上がり女官の次の就職先は伯爵夫人ですか~
「お店の常連さんにパン教室をやってる人がいてね。誘われたの」
「へぇ、いいじゃん。行っておいでよ」
「でも、教室だしなぁって」

 彼女の言いたいことはわかった。教室ということは、お金がいるのだ。

「……私はロジアネが行きたいなら、行ったほうがいいと思うよ」

 カップを口に運んで、リリアンはつぶやいた。

「しないで後悔するより、して後悔したほうがいいと思う。死ぬとき、あのときああしていたら~なんて思いたくないじゃん」
「……まぁ、そりゃそうだけど」
「やりたいことに全力でいようよ」

 笑いかけるとロジアネがなんとも言えない表情をした。

 しかし、少ししてうなずく。

「うん、前向きに考えてみる。独学でがんばってみようかなって思ってたけど、やっぱり美味しく作るにはプロから習ったほうがいいよね」
「……うん」

 リリアンがああ言ったのは『美味しく作るため』ではない。

 ロジアネの人生にたくさんの彩を添えたかったからだ。

(パン教室に行ったら、きっといっぱい出逢いがある。新しい交流もある。この子にちょっとでも楽しいことを与えたい)

 口に出したら、ロジアネは拒否する。

 だから、リリアンは黙っておくことにした。

 こんなこと伝えたところで、なにも変わらないから。
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