呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「俺に歯向かうような不届き者が、平民の中にいるとは思わんが……。つねに最悪の事態を想定しておきたいんだ」
「わ、わかりました……。では、オルジェント、様と……お呼びすればよろしいのでしょうか……?」
「そうだな」

 彼は満足そうに微笑むと、彼女の腰を抱いて歩き出す。

(彼が怒り出さなくて、本当によかった……)

イブリーヌはほっと胸を撫で下ろしながらも、脳裏にある疑問を抱く。

(陛下も、オルジェント様と言う名前の殿方も……。一人しかいないのでは……?)

 名を呼ぶことを許されている時点で。
 二人が並んで歩く姿を見れば、彼と親密な仲であるとすぐに連想できるはずだ。

(陛下は一体、何を恐れているのか……)

イブリーヌは納得がいかない様子で傾げながら、機嫌がよくなった彼とともに服飾店へ向かった。
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