呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「逃げずに、俺と向き合ってくれ。頼む」

 だが――夫の方は、イブリーヌが答えを曖昧にするのを許せないようだ。
きちんと言葉にしてほしいと願われた彼女は、瞳をゆっくりと開いて寂しそうな声を紡ぎ出す。

「何度も諦めようと思いました。どんな理由があれ、陛下を奪う女性を傷つけた私に、生きている価値などないと……。身も心も、全て亡霊に明け渡すつもりでした……」
「許さない」

 オルジェントは視線を逸した彼女の頬を掴み、無理やり目線を合わせた。

「それだけは、絶対に」

 夫が妻のことをどうでもいいと、本気で思っているのなら――イブリーヌはこうして、人間としてこの場でオルジェントと顔を合わせることはなかっただろう。

(陛下のお気持ちは、嘘偽りのない……本物だ)

 それさえわかれば、彼女は充分だった。

「陛下が私に愛を囁くことがなくても、構いません……」

 ――もう、彼の気持ちを疑い――不安でいっぱいになる生活を続ける必要など、ないのだ。

(私はもう、なんの力を持たない……。亡霊の声が聞こえるだけの、か弱い女性では……ないのだから……)
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