呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「い、嫌……です……」
「イブリーヌ?」
「わ、私……! オルジェント様と、離縁など! したく、ありません……!」

 夫がこれから紡ぐであろう言葉を想像したイブリーヌは、彼の胸元をきつく抱きしめ、瞳に涙を浮かべながら懇願する。

 切羽詰まった主の声を耳にした黒猫は勢いよく床の上から身体を起こすと、目にも留まらぬ速さで四肢を動かし、夫婦の元へとやってきた。

『イブリーヌ、泣かせた……』

 全身を震わせオルジェントを威嚇するコクマの赤い瞳が細められた瞬間。
小さな身体に黒いオーラが纏わりつく。

『許さない』
『許せない』
『イブリーヌを生涯、愛し抜くと誓ったのに』
『女王を傷つけないと誓ったのに』
『泣かせるなんて!』

 やがて、黒猫の周りには――愛する女王を悲しませた責任を問う、亡霊達が姿を見せた。

(いけない……!)

 心の声が言葉に出ていたことを知って我に返ったイブリーヌは、慌てて呆然と口を噤むオルジェントから視線を逸し、彼らへ命じる。
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