呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「ええと……」
「娘には散々、迷惑を被っただろう。父親と顔を合わせるのがつらいのであれば、寝室に戻ったほうがいいのではないかと……伝えるつもりだった」
「……私の身を、案じてくださったのですか……?」
「当たり前だ。今さら離縁など……。呪いにでもかからぬ限り、俺が提案することはない」

 夫から説明を受けた妻は、顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
 早とちりであることに気づいたからだ。

『ムカムカ』
『イライラ』
『新しい呪い、かけてやろうか?』
『でも、イブリーヌが嫌がるよ』
『もうちょっと、様子見る?』

 亡霊達が口々に囁く声を耳にして我に返ったイブリーヌが、彼らに指示を出そうとした瞬間――臨戦態勢を解いた黒猫が、不意に出入り口に視線を向けた。

(なんだろう……?)

 不思議に思った彼女がそちらへ視線を向けるとほぼ同時に、扉を叩く音が聞こえてくる。

「間に合わなかったか……」

 深いため息を溢したオルジェントは、離れないように妻を強い力で抱き寄せると、顎を使って黒猫にテーブルから降りるように無言で諭した。
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