琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「んなことより、今日のパーティーにクソガキが野木の親族って若い男を連れてきやがった。中林知己っていう野木社長の妹の息子らしい。葵羽も昔の顔見知りだったらしくて警戒を解いてた。どうにも気になるから気をつけておいてくれ」
真面目な顔で切る出すと、滉輔の表情も変わった。
「隆一の従兄弟か。中林知己ね。わかった」
「経歴はまだわからないが大政の会社に入ることになったと言ってたからこの先葵羽にアプローチしてくるつもりなのかもしれない。どのみち野木の人間だからこっち側に着くことはないだろう」
「ちょっと調べた方がいいな、そいつ。葵羽ちゃんが警戒を解いてたってのも気になるし。因みにだけど、容姿は?」
「ぱっと見は穏やか。顔は十人並みよりはいいだろう。葵羽の好みかどうかはわからないが好感触だったのは間違いない。聞いてないが余程昔いい思い出があるのかもしれない」
「あの隆一の従兄弟なのにか?」
「あのクソガキの従兄弟だからだろ。葵羽がどれだけアイツを毛嫌いしてるか知ってるだろ。だからあれよりましってだけで幼い頃の葵羽に好印象を残してる可能性があるってコトだ」
ああなるほど、と滉輔が頷いた。
「隆一と言えば、お前はクソガキって呼んでるけど、葵羽ちゃんがアイツのこと影でなんて呼んでるか知ってるか?」
「そんなのがあるのか?」
俺には”隆一さん”と言っている姿しか記憶にない。
「そっか、お前は知らなかったのか。ーーー”キリギリス”だよ、キリギリス」
似合ってるよなと滉輔が鼻で笑う。
確かに言い得て妙だ。
「あのガリガリの体型に細い顎、まさにキリギリスだろ。だけどな、それって葵羽ちゃんがアイツの見た目をからかってつけたあだ名じゃないんだ」
どういうことだ?
キリギリスといえばそっくりそのままクソガキの外見に当てはまる。
神経質そうな細い身体に逆三角形の頭。細い顎。
見たまんまだしピッタリだと思うが。
だが、確かにあの葵羽がひとの外見をからかうようなあだ名をつけるとは思えない。
「昔話だけど、大政の会長が存命だった葵羽ちゃんが小さい頃、なにか頑張ったりいいことをすると会長からご褒美に金平糖がもらえたらしいんだ。転んで泣かなかったとか逆上がりが出来たとか、何でもよかったらしい。同じ孫である隆一もそうやって金平糖をもらってたらしいんだが、アイツは些細なことでご褒美を強請りもらったその場ですぐ口にした。葵羽ちゃんはそれを瓶に集めて大事にとっておいた。親に叱られたり悲しいことがあった時に食べるために」
「ああ、なんか葵羽とクソガキらしいな」
「ある日、友達と喧嘩した葵羽が自分の部屋で金平糖を一粒だけ食べているところをたまたまやってきた隆一に見られて『ちびちび食ってアリンコみたいだな』と馬鹿にされた挙げ句、瓶を取り上げられて大事にとっておいた金平糖をほとんど食われてしまったんだと」
「ひどいな」
「金平糖を入れていた瓶っていうのがこう牛乳瓶みたいな形をしていたからそのまま口をつけてざーっと流し込むみたいにされて。奴が口を離したときにはまだ少し残っていたそうだけど、葵羽ちゃんはもう食べる気にならなくてそのまま奴に持って帰らせたって」
そりゃそうだろうな。アイツの食べかけなんていらないだろう。
小さな葵羽が傷ついたと思うと今からでも奴を殴りたくなる。
「で、アリンコと言われた葵羽ちゃんは自分が蟻ならアイツはおとぎ話の『蟻とキリギリス』のキリギリスだと思ったんだと。20年近く経つ今でも金平糖の恨みは忘れていないって心の中で隆一をキリギリスと呼んでいるらしい。いつか寒さに震えながら飢えろって怨念を込めて」
ぷっと吹き出した。
やばい、ちょっと面白い。
「これが食べ物の恨みってやつですよね~なんて葵羽ちゃんは笑ってたけど隆一ってアホだよな。アイツ実は株式の件を抜きにしても葵羽ちゃんのこと好きで本気で嫁にしたいと思ってるだろ。でも絶対無理だから。恨まれてるもん20年も」
はんっとせせら笑う滉輔に俺は完全には同調出来ずにほんの少しクソガキが哀れに思った。
あいつ好きな女に意地悪したくなる男の典型例だ。
馬鹿なやつだ。
だが、俺も気をつけよう。
葵羽に恨まれるのは勘弁だ。もう結婚しているとしてもまだ心は手に入れていない。
真面目な顔で切る出すと、滉輔の表情も変わった。
「隆一の従兄弟か。中林知己ね。わかった」
「経歴はまだわからないが大政の会社に入ることになったと言ってたからこの先葵羽にアプローチしてくるつもりなのかもしれない。どのみち野木の人間だからこっち側に着くことはないだろう」
「ちょっと調べた方がいいな、そいつ。葵羽ちゃんが警戒を解いてたってのも気になるし。因みにだけど、容姿は?」
「ぱっと見は穏やか。顔は十人並みよりはいいだろう。葵羽の好みかどうかはわからないが好感触だったのは間違いない。聞いてないが余程昔いい思い出があるのかもしれない」
「あの隆一の従兄弟なのにか?」
「あのクソガキの従兄弟だからだろ。葵羽がどれだけアイツを毛嫌いしてるか知ってるだろ。だからあれよりましってだけで幼い頃の葵羽に好印象を残してる可能性があるってコトだ」
ああなるほど、と滉輔が頷いた。
「隆一と言えば、お前はクソガキって呼んでるけど、葵羽ちゃんがアイツのこと影でなんて呼んでるか知ってるか?」
「そんなのがあるのか?」
俺には”隆一さん”と言っている姿しか記憶にない。
「そっか、お前は知らなかったのか。ーーー”キリギリス”だよ、キリギリス」
似合ってるよなと滉輔が鼻で笑う。
確かに言い得て妙だ。
「あのガリガリの体型に細い顎、まさにキリギリスだろ。だけどな、それって葵羽ちゃんがアイツの見た目をからかってつけたあだ名じゃないんだ」
どういうことだ?
キリギリスといえばそっくりそのままクソガキの外見に当てはまる。
神経質そうな細い身体に逆三角形の頭。細い顎。
見たまんまだしピッタリだと思うが。
だが、確かにあの葵羽がひとの外見をからかうようなあだ名をつけるとは思えない。
「昔話だけど、大政の会長が存命だった葵羽ちゃんが小さい頃、なにか頑張ったりいいことをすると会長からご褒美に金平糖がもらえたらしいんだ。転んで泣かなかったとか逆上がりが出来たとか、何でもよかったらしい。同じ孫である隆一もそうやって金平糖をもらってたらしいんだが、アイツは些細なことでご褒美を強請りもらったその場ですぐ口にした。葵羽ちゃんはそれを瓶に集めて大事にとっておいた。親に叱られたり悲しいことがあった時に食べるために」
「ああ、なんか葵羽とクソガキらしいな」
「ある日、友達と喧嘩した葵羽が自分の部屋で金平糖を一粒だけ食べているところをたまたまやってきた隆一に見られて『ちびちび食ってアリンコみたいだな』と馬鹿にされた挙げ句、瓶を取り上げられて大事にとっておいた金平糖をほとんど食われてしまったんだと」
「ひどいな」
「金平糖を入れていた瓶っていうのがこう牛乳瓶みたいな形をしていたからそのまま口をつけてざーっと流し込むみたいにされて。奴が口を離したときにはまだ少し残っていたそうだけど、葵羽ちゃんはもう食べる気にならなくてそのまま奴に持って帰らせたって」
そりゃそうだろうな。アイツの食べかけなんていらないだろう。
小さな葵羽が傷ついたと思うと今からでも奴を殴りたくなる。
「で、アリンコと言われた葵羽ちゃんは自分が蟻ならアイツはおとぎ話の『蟻とキリギリス』のキリギリスだと思ったんだと。20年近く経つ今でも金平糖の恨みは忘れていないって心の中で隆一をキリギリスと呼んでいるらしい。いつか寒さに震えながら飢えろって怨念を込めて」
ぷっと吹き出した。
やばい、ちょっと面白い。
「これが食べ物の恨みってやつですよね~なんて葵羽ちゃんは笑ってたけど隆一ってアホだよな。アイツ実は株式の件を抜きにしても葵羽ちゃんのこと好きで本気で嫁にしたいと思ってるだろ。でも絶対無理だから。恨まれてるもん20年も」
はんっとせせら笑う滉輔に俺は完全には同調出来ずにほんの少しクソガキが哀れに思った。
あいつ好きな女に意地悪したくなる男の典型例だ。
馬鹿なやつだ。
だが、俺も気をつけよう。
葵羽に恨まれるのは勘弁だ。もう結婚しているとしてもまだ心は手に入れていない。