琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「しかし隆一も哀れだな。愛しの葵羽ちゃんはこんな腹黒いやつの嫁なんだから」

「お前が言うな。もとはといえば葵羽を連れてきたのはお前だろう」

「いや、まさかお前が一目惚れするとは思わねーじゃん」
「付き合いの長い滉輔にはバレバレだったっけな」

お互いにははっと笑った。

「よし、俺も手伝う。今から一時間で終わらそう。で晃輔は明日から定時で帰れ」

「おう助かるな。腹ごしらえもしたし一気に終わらすか」

それからはお互い無言でパソコンに向かった。



予定通り一時間でサクッと終わらせ互いの自宅へと戻った。
俺の場合はどこが自宅なのかわからないが。

都内に所有する住居は4つ。
そのうちの1つに葵羽を住まわせていて居住実態はないが俺の住民登録もそこだ。

今日帰ってきたのは自宅の1つである港区のマンション。
ここが一番会社に近いからという理由で一番寝泊まりに使用することが多い。

本当は葵羽のいる自宅マンションに押しかけて今日のキスのことなど膝をつき合わせて問いつめたかったところだが、歯止めがきかなくなりそうで我慢した。
あの女がつけた怪我は俺たちの残業中に滉輔の嫁に確認してもらった。

怪我の程度によっては訴えることも辞さないつもりだったが、少し赤くなっているだけだから訴えなくていいと葵羽が強く言い張っているという報告があって今夜は様子をみることにした。
もちろん明日自分の目で確認するつもりだ。

シャワーを浴びて日本酒を注いだグラスを片手にテラスに出た。
猫の目のように細い月を眺めながら冷酒を口に運ぶ。

そういえば今夜のこの細い月は昼間大政の会議室で葵羽が隆一に向けた冷たい目に似てるじゃないか。

惚れた女にあんな目で見られても食い下がるなんてすごい執念だ。
おまけに本人は知らないがキリギリスと呼ばれしかも20年も恨まれてるなんてな。はっきり言って自業自得だ。早く諦めればいいものを。

俺を初めて見たときの葵羽の目は満月のようにまん丸だった。
思い出して笑みが漏れる。


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