琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「すみません、葵羽さん。時間前なんですけどいいですか」
振り返ると面談予定の伊勢さんが立っていた。
時刻は18時45分。約束の15分前だ。
彼の仕事の区切りがよかったのかもしれないのでもちろんこちらはオッケー。
「はい、もちろん。じゃあに移動しましょうか」
タブレットとノートを持って立ち上がり、行き先ボードの自分の名前の横に面談室Aと書き込んだ。
社長は席を外したまま戻ってきてはいないけれど、もともと同席するわけではない。
営業部員に「行ってきます」と声を掛け伊勢さんと並んでA会議室に向かった。
「こんな時間にすみません」
「大丈夫ですよ、夜の部は伊勢さんだけじゃないです。明日も夕方から3人入ってますからお気になさらず。はじめましょう」
伊勢さんの前の職場は超有名企業。だけどいろいろ職場環境が合わずイヤになって転職してきた人だ。主に女性上司からの嫌がらせがあったと聞いている。
こちらからの質問事項はいつもと同じ。
スタッフからの意見を聞いて問題なければ軽くフリートークをして終了になる。
一人15分から20分程度で終わるものだけど、わたしがここに来た初めの頃はいろいろと問題があって一人30分以上になることもザラだった。
というのもうちのデザイン部門、2つに分かれていてそこの関係が悪かったのだ。
Iチーム、インダストリアルデザインチームとCチーム、コマーシャルデザインチームの仲が悪いせいで双方がライバル関係のようなバチバチが日々繰り広げられていた。
面談で聞くのは主に取引先の企業からなにか無理強いされるようなことはないか、本人や家族の病気など仕事に影響しそうな困りごとはないか、設備面や職場環境で希望することはないかなどなのだけど、大半のスタッフが口にしたのがデザインチームの仲の悪さだった。
IチームのメンバーはCチームに対して偉そうだとかたいして会社に貢献していないとか。CチームのメンバーはIチームに対して自分たちを見下しているとか会社の収益を生まない仕事をしているとか・・・・・・まあいろいろ。
互いのプライドがぶつかり合って互いに貶合う実に不毛な争いをしていた。
そのため面談の場でも愚痴を聞かされることが多かったのだ。
いい年をした大人の集まりなのにと当時23才の自分は思った。
しかも、会社を設立したばかりの頃は仲は悪くなかったのに、IチームのチーフとCチームのチーフが女性を取り合い三角関係になったことが発端だったとかマジで笑えない。
そして社内におけるデザイン室の場所もよくなかった。間取りの関係でIチームが階上、Cチームが階下にあり「上(の階)が」「下(の階)が」の言い方がそのまま上下関係のように誤解するような言い方をする者がいたり。
ひとりひとりの仕事スキルは問題ないどころか素晴らしいと聞いていたけれど、この中学生みたいな対人スキルは何なのか。