琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
そんな状況がわかったのでちょっと動きました。ええ、仕方なくですけど。

両方のチーフを呼び出ししつこく何度も3人で会食。
お酒が入ると案の定互いに罵り合いだしたので一喝させてもらった。

ちょっと調べさせてもらったら三角関係になった女性というのがキャバ嬢さんで、どっちにも悪いからと彼女が身を引いたって事になっているけれど、実はそろそろお金を吸い上げるのも潮時ってコトでどちらも彼女に切られただけの話だ。実は彼女には旦那さんと高校生の息子さんがいた。

それから晃輔さんにお願いして両チームが組まないと出来ないような案件を無理矢理ねじ込んだ。
やっぱりというか予想通り伝達ミスが相次ぎ、納期が迫ってくる。そこでもまた責任のなすり合いが始まりわたしはキレて一喝させてもらった。あなたたちプロでしょう、プライド持って仕事してるのでしょうと。
小娘に言われて気分悪かっただろうなあ。

わたしがしたのはその程度。

そんな折、オフィスを移転する話が出ていたので新しいオフィスでは2つを同じフロアにして欲しいと社長に頼んだ。
そしてたまたまどちらにも新しいデザイナーを中途採用で迎え入れたので、デザイナー室に「何か困っていることはないですか」なんてご機嫌伺いと称して頻繁に顔を出すようにした。チーフ二人にはめちゃめちゃ嫌がられたが。

新しいデザイナーたちが新しい風を運んできてくれたおかげで、チームの関係は改善され、何とIチームの中堅男性デザイナーとCチームの駆け出しの女性デザイナーが結婚するというおめでたい出来事まで。
今や垣根はなくなったに等しい。


「伊勢さん、何かありますか。環境、備品、設備、それと給与、福利厚生、なんでもいいですよ」

「職場環境ーーーについては問題ありません。おかげさまで」

うん?職場環境のあとの間は何を意味しているのだろう。
言いたいことや不満があるのかな。

この間二人で食事をしたときにはずいぶん働きやすくなったと言っていたから職場環境については問題ないとは思っていたけど、その他には何かあるのかもしれない。

「それは職場環境以外では問題があるってコトですか?会社のこと、それともプライベートなことですか」

解決できるかは別として、この場では困っていることがあるのなら何でも聞く。
職場に置いてある共用のお茶がまずいって話から不妊治療のため通院したいが職場の理解は得られるだろうかという話、家で妻(夫)といると疲れるから会社に長くいたいなんて話もあり。
とにかく何でもいいからまずは言ってみてというスタンスだ。

「・・・・・・」

「何もなければいいですけど」

「あ、いえ。何でもいいんでしたよね。太田さんは子どもの夜泣きの愚痴を、佐藤さんは婚活パーティーでペアが出来ないという話を聞いてもらったとか」

「もちろん何でも、ですよ。秘密も厳守します」

聞いてみれば解決策があるかもしれないし。
もちろんないかもしれないけど。

「・・・実は実家の両親に結婚を勧められていまして」

あら。
チラリと手元の伊勢さんの資料に視線を落とす。
29才、出身は都内。
男性なんだし急がなくてもと思うけど、それはわたしの考えでご両親の思いとは違うのだろう。

「・・・・・・」

え、終わり?
話の続きはないの?と視線で促すと伊勢さんは考えこむような仕草をしている。

これでは伊勢さんが何に困っているのかわからない。

実家のご両親は結婚相手がお付き合いしている彼女では嫌だと言っているのだろうか。まさか、今時親の決めた相手として欲しいとか?
彼女が結婚を渋っているというパターンもあるだろうし、伊勢さんだってまだ早いと思っているのかもしれないし。
いずれにせよ、黙られちゃうと何を聞いて欲しいのかよくわからないんだけど、ねえ。




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