琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「帰国して2年過ぎたし、来月には葵羽も25になるよね。だからそろそろいいかなと」

だから、何がいいんだ、何が。

「社長。私にわかるように説明してくださいってば」

「クリス」
私の言葉に被せるように言って、私の唇に人差し指を押し当てる。

「社長じゃない。『クリス』」
「でも・・・」

「でもじゃない。公私を分けるために『社長』と言っていたことは理解している。だがそんなことはもういい。公私ともに葵羽は俺のパートナー。そんなこともわからないような社員はもうどこにもいない。今日から呼び方も戻すように」

「は?」

どうでもいいとか、もうどこにもいないとか、言葉に何か不穏な香りがしたのは気のせいだろうか。

「社長いったい何をーーー」
「『クリス』」

私を見る視線が痛い。
強引なのはいつものことだけど、今夜の社長は口調も違うし調子が狂う。

「ク、クリス」

久しぶりに呼ぶと「なんだい」と裏に何かありそうな笑顔を浮かべる。
なんだかわからないけど、ヤバイ気がする。
『社長』と呼ぶより『クリス』と呼んだ方が失敗だったような気がするのはなぜだろう。

いつもの美術品のようなクリスの顔も血が通った人間に見えるし。

「こ、コーヒーのお代わりいかがですか?」
「いや、大丈夫」
「紅茶もありますけど」
「いいから」

立ち上がろうとしたけれど、クリスにがっちり抑え込まれて動けない。

「逃げたい?」
顔を覗き込まれあの琥珀色の瞳に見つめられて息を呑んだ。

近すぎる。

人目がないところでの接触は慣れない。
人目があるからこそ気分は女優で『シュミット夫人』を演じているのだから。

「ああ葵羽の顔が赤くなってきた。かわいいな、うちの奥さんは」

「な、何を言ってるんでしょーか・・・・・・」

「もっと近くで見るか?俺の目が好きだって言ってたよな」

更に顔を近づけてきて二マっと笑った。私が驚いて身体を反らすと「逃げるな」と更に密着される。

ナニこれ。心臓に悪いんですけど。
ドキドキして心臓が喉まで上がってきそう。

久しぶりにプライベートで見たクリスの瞳は透明度の高い琥珀色の湖のようで吸い込まれそうに美しい。
けれど、その瞳は宝石ではない。
宝石なら照れないけれど、人の顔に付いているのだ。瞳として2つも。
しかも美しいのは瞳だけじゃない。
造形全てが美しい。なのにそんな神の産物と近い距離で見つめ合うとかどんな拷問。

その瞳がお気に入りだと知っているクリスの方は私の反応を楽しんでいるように見える。いや絶対に楽しんでいる。

「ほらこれ葵羽のもの。俺はきみの夫だから」

そう言って更に顔を近づけてくる。
やめて欲しい。今や熱いのは顔や耳だけじゃなく全身に近いし心臓は口から出てきそう。

いつもは『シュミット夫人』を演じているから大丈夫だったけど、素の状態ではとてもじゃないけど耐えられない。


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