『俺を好きになるな』って言ったのに、幼馴染(転生姫)がフラグを折らせてくれません

第三章「雫、お前は俺の大切な親友だろ?」

〇学校・中庭・昼休み

青空の下、中庭には昼食を楽しむ生徒たちが集まっている。
ベンチに並んで座る雫と透真は、互いに持参した弁当を広げていた。
長年続いている、二人だけの昼休みの時間。

雫「今日も透真の卵焼きは完璧だね」
透真「お前のはまたコンビニか。せめて彩りを考えろよ」
雫「文句あるなら、毎日作ってくれてもいいんだけど?」
透真「……本気で言ってるなら、毎朝5時に起こしてやる」
雫「ひぇ、やっぱりコンビニで……」

和やかに笑い合うふたり。
だが、ふとした瞬間、透真の表情が陰を帯びる。
雫が気づく前に、彼は目をそらす。

〇学校・廊下・昼休み後

弁当を食べ終えた二人が並んで歩く。
雫は、心の中で昨日の図書室での出来事が頭から離れなかった。

雫「ねえ、昨日のことなんだけど……」
透真「図書室の本の話か?」
雫「うん……あのとき、すごくびっくりした。透真、いつもはあんなふうに止めたりしないのに」

透真は一瞬言葉に詰まり、立ち止まる。
そして、ゆっくりと口を開いた。

透真「ああ…あんな本、ただの作り話だ。気にするな」
雫:「でも、私……あの紋章とか、名前とか、なぜか懐かしい気がしたの。変だよね」
透真:「……そうかもしれないけど、よくあるよ、そういうの」

透真の声音は優しいのに、どこか距離を置いたような冷たさを感じた。
雫は寂しそうに笑った。

雫「ねえ、透真。もし私が何か忘れてるとしたら、それを思い出すのは……悪いことかな?」
透真「……」

沈黙。
透真はふっと顔を上げ、少しだけ寂しげに微笑んだ。

透真「雫。お前は俺の、大切な親友だろ?」
雫「……うん」
透真「だったら、今のままでいてくれ。それでいい」

その言葉に、雫は返事ができなかった。
なぜだか胸がチクリと痛んだ。

〇学校・図書室・放課後

授業が終わった後も、雫は図書室に残っていた。
気づけばまた、昨日と同じ本を手に取っている。
鳳凰国の歴史。黎天皇子。玲蘭姫。

ページをめくったとき、昨日にはなかった挿絵のページに目が留まる。

雫M「この装束……見たことある。金と赤の刺繍。舞い散る花の中で……」

急に頭がズキンと痛む。
映像のような記憶が走る。
鮮やかな宮殿、誰かの背中、そして……名前を呼ぶ声。

雫M「……黎、天……?」

次の瞬間、誰かが本をふわりと閉じる。隣に透真が立っていた。

透真「まだ読んでたのか」
雫「ごめん……でも、どうしても気になって」
透真「それ、気にする必要はない」
雫「でも私……」

透真がそっと雫の手から本を引き取る。
彼の手が震えていた。

透真「雫……何があっても、俺はお前の味方だ。だから……お願いだ。深入りしないでくれ」

その声は、まるで泣きそうなほど優しくて、哀しくて。
雫は何も言えずに、ただ透真の目を見返していた。
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