天使の階段
それからは、ずっと“妊娠”の事だけが、頭の中にあった。

大会が近いというのに、走る事を考えられない。

部活の間も、思いっきり走る事ができずに、周りからは心配の目で見られる毎日。

終わっても、真っ直ぐ家に帰れず、商店街をぶらつく日が、多くなっていた。


ある日、ふと前を見ると、街の中のドラッグストアが目についた。

『妊娠検査薬』

CMで一度だけ見たことがある。

何気に店の中に、足が向いた。

フラフラと歩きまわると、スーツを着たカップルが、目に飛び込んできた。


「どうする?赤ちゃん、できてたら。」

「嬉しいに決まってんじゃん。」

仲のいいカップル。

本当に愛して合っている感じがする。

その二人が去った後、検査薬が置いてある棚の前に立った。


これで、妊娠してるかどうか分かる。

そっと手を伸ばした瞬間だ。

茶色の髪を、派手に巻いてる女の人が、私よりも先に検査薬の箱を取った。
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