天使の階段
「その代り……また会えるおまじない。」

「えっ?」

タカさんの手が首筋に触れると、私の唇にネットリとしたモノが絡みついた。

「かわいい!キスだけで震えちゃって。」

私は何も答えずに、前を向いた。


今のって、キス?

私、初めてだったんだけど。

こんなあっさりと、終わるなんて。


そんなショックにかられている私を余所に、タカさんはポケットから財布を取り出した。

「はい、1枚だったよね。」

タカさんは、私の前に1万円札を出した。

「また会おうね。紗香ちゃん。」

私は“はい”と返事をする代わりに、お札を受け取った。








それからはタカさんは、待ち合わせした場所に、私を送ってくれた。

帰りの車の中、何を話したのか覚えていない。

ただ笑って、別れた事はなんとなく、覚えていた。

そして、タカさんから貰った1万円を、財布の中に入れる事ができたのは、玄関にたどり着いてからだった。
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