天使の階段
アルバイトを初めて1か月後。

部活で校庭を走っていると、柊子が後ろから追いかけてきた。

「バイト、もう慣れた?」

「うん。」

後ろで一つに束ねられた長い髪は、少し茶色が入っていて、柊子が走る度にとび跳ねている。

「紗香は一回で、いくら貰うの?」

「……一枚。」

柊子はキョトンとしている。

「まだ、それしか貰ってないの?」

「そうだよ。」

「な~んだ。すぐに2~3枚、貰えるようになると思ってたな。」

柊子は残念そうに言った。

「そう?」

「紗香は黙っていれば、お嬢様っぽいから。」

私は何て答えたらいいか、分からなくて黙ったまま、ただ走り続けた。

ちらっと覗いた柊子は、横の髪を垂らしていて、それが大人っぽい顔を、さらに色気のあるものにしている。


柊子の顔は、昼と夜で二つある。

「なに?」

柊子が急にこっちを向いた。

「ううん。」

私は少しだけ、走るスピードを上げた。
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