前世で魔王に殺された聖女ですが、ごく平凡な一般人に生まれ変わっても魔王に捕まりました。なんか用ですか?
「Gは一匹見かけると百匹はどこかにいるらしいぞ」
「へっ?」
「俺はまだ虫よりは好かれているらしいな」
「はあ……?」

何と何を比べているのだろう。少し呆れる。

「一匹殺す度にキスするからな」
「えっ? 約束と違う」
「サラ、良いな?」

魔王は笑顔だ。本気で言っているらしい。

「良くないよ、ちょっと!」

魔王はサラを捕まえて口にキスをした。

「んんっ」

丁寧に何度もされた。最初は羞恥にたえていたが、しだいに頭が真っ白になって何も考えられなくなった。

「……はぁ」
「サラ」

もう一回してきそうになったので、さすがに止めた。

「もうダメ。もうおしまい」

サラの胸に頭を押し当てる。魔王はため息をつく。
サラの心臓が早鐘のように脈を打っている。
そそくさとトイレに逃げ込んだ。

顔が熱い。

(なんてこと?)

サラは混乱を極めた。

(全然、嫌じゃない)

憎い相手のはずなのになぜか嫌だと突き飛ばせなかった。頭がぐらぐらする。

(あの顔のせいだわ。なんてこと!)

他と比べてきっとサラのタイプなのだろう。
トイレの中でくるくる回る。

(嘘でしょ?! 嘘!)

両手を頬に当てながらショックを受ける。

(好きなの?! もしかすると好きになったの?)

そんな自分が信じられない。

(ダメよ、ダメ。そんなの絶対ダメ!)

サラは一旦落ち着くとトイレから出た。
魔王を見ると相変わらず良い顔形をしている。

「下したのか?」

セリフは最悪だ。げんなりした。

「違います。女子はいろいろあるの」
「そうか……じゃあ、横になれ」
「んんん?」
「そういうときは楽にした方がいいだろう。体が辛くなると聞いたことがある」
「あっ! なるほどね」

どうやら月の障りと勘違いしてくれたようだ。
違うのだが、手を出しにくくなっていいだろう。

「では、お言葉に甘えて」

素直にベッドに横になるサラ。
魔王が背中に張り付いてくる。

「なぜ? 貴方も体調が悪いの?」

サラはいけないと思いつつドキドキしてしまう。

「いや、寝るだけだ。安心しろ」

「ねえ、なんで人間を殺すの?」

サラは不意にこんな質問をしてしまった。

「人間が俺を殺しに来るからだ。俺はただ、それを蹴散らしている。人間と魔族が殺し合うのはずっと昔からで、何代も前の先祖から変わらないことだ」
「そうなのね」
「サラが害虫を殺すのと同じようにな」
「虫なのね、私たち……」
「害のあるものを排除して普通に生きているだけだ」

魔王の寝息が聞こえてきた。本当に寝つきが良い。
つられてサラも眠ってしまった。
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