前世で魔王に殺された聖女ですが、ごく平凡な一般人に生まれ変わっても魔王に捕まりました。なんか用ですか?
サラはじめじめする質の悪い牢屋に入れられていた。食事もまずい、本もない。
殺すならあの場で殺されていたはずだ。

(まだ殺さない理由が何かあるのね)

鼻歌が聞こえてくる。壁に反響する。

「やあ! 元気?」
「……なによ」
「そんな目で見ない」
「何が目的?」
「アイツ強いんだよね。正攻法じゃ人間は勝てないから、アイツの弱点になってもらうよ」

魔王をおびきだし、サラを餌にして罠をかけ、彼を殺す目的らしい。

「そんなあからさまな罠を仕掛けても来ないわよ」
「そっかなぁ? 魔族にとって番は特別らしいよ。番としか繁殖しないし」
「……」
「そうだなぁ。アイツが死ねば君は生かしてもいいよ。協力してくれるなら報酬は僕の第三夫人くらいにしてあげる」
「なんでそうなるのよ」
「魔族の撲滅は人類の悲願だよ。君も人間なら同じだろう」
「……そうかもしれないわね」

以前のサラならそう思っていたかもしれない。聖女の時も魔王を討伐するのが使命だと思っていた。
だけど人間と同じように生きているだけだった。

「監禁されて、いろいろされたんでしょ? やーらしー」

勇者は目を細め見下ろしてくる。汚らわしいものを見るような目だ。

「関係ないでしょ!」

この男が邪推しているようなことはないし、やっぱりこの人の方がよほど悪どいから悔しい。

「そうだね。じゃっ、これあげる」

勇者は短剣をサラの前に投げた。

「毒が塗ってあるから気を付けて。象も一瞬で死ぬくらい強いやつ」
「これを?」
「アイツが君を迎えに来たらそれで刺せばいい。死ぬかはわからないけど動きは止められると思う」
「……そしたらどうするの?」
「僕が首を切り落とす」
「……そう」
「できそう?」
「……」

サラは内心ではそうするつもりは微塵も無いが迷っているフリをした。

「君は人間を裏切ったことになっているから誠意を見せないと。できなかったら君の村の人が危ないよ」
「そんな……」

やっぱりこの人の方が悪人に見えてしょうがないやり口だった。
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