『人妻の過去』
相変わらず床に手をついて四つん這いのままのアタシの前で


同じく床にねっころがっている。


『妊娠証明書』のような検査薬を


優子の彼氏が手に取った…


何とも言えない


暗い…


暗い表情。


優子は短大に入学してすぐに、


彼氏の子供を堕ろしていた…。


優子にとっても保育士になるのは夢で。


まして県外から、親の反対を押し切って…奨学金をもらって入学した短大。


『産んで欲しい』


と言う彼氏と、何度も話し合いをしたけれど平行線で


ツワリもひどく


このままじゃ学校にも通えないというので


結局彼氏に無断で


赤ちゃんを堕ろしたんだ…。


その優子の決断が正しかったかわからないけど


優子は堕ろしてしまった赤ちゃんに名前をつけ、堕ろした日を、その子の命日として…毎月必ず、部屋にお花と水,お菓子をあげていた。


『忘れてないよ…』


『ごめんね…』


の気持ちが


溢れていた…。


優子も、


彼氏も、


辛い思いをしたんだって


そう思っていた…


きっと優子の彼氏は今…


自分達のあの頃にタイムスリップして


アタシを重ね合わせて見ている…






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