セカンドマリッジ ~病室で目覚めたら、夫と名乗るイケメン社長との激甘夫婦生活が始まりました~
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 暦の上ではもう秋に分類される今の時期。もうすぐ九月になるとはいえ、気温はまだまだ高く、勤務を終えて外に出た志歩は、むわっとした蒸し暑さに思わず顔をしかめる。

 思わず暑いと呟きそうになるが、そのつぶやきに反応してくれる相手がいないことに気づき、すぐに口をつぐむ。シフトの都合上、今日は加奈が休みなのだ。

 志歩はさっさと帰ろうと、護衛の人がいることを確認してから、駅へ向かって歩き出す。

 ところが、志歩のその歩みは、向かい側からやって来た人物によって、すぐに止められてしまった。

「っ、志歩さん……」

 つばの広い帽子をかぶった女性が志歩を真っ直ぐに見ている。口元を両手で覆い、随分と動揺しているように見える。

 志歩の名を呼んだことから、知り合いだということはわかるが、この女性に見覚えはない。

「え? あの……」

 何と声をかけたらいいだろうか。純粋にこの人を忘れているのか、記憶がない期間に出会った人かがわからず、対応に悩む。

 できるだけ傷つけずに、忘れてしまっていることをどうやって伝えようかと考えていたら、突然女性が涙を流し始めた。

「えっ? どうされたんですか?」
「ごめんなさいっ……志歩さんに会ってはいけないなのに。ごめんなさいっ」

 ただならぬ様子に、二人の間に何かがあったのだと察する。きっと記憶がない期間に、この人を泣かせてしまうような何かが起きていたのだろう。

 しかし、何も覚えていない志歩には、この人とどう向き合えばいいのかがわからない。

 とはいえ、病院の前でむせび泣く女性をそのままにするわけにもいかず、志歩は彼女に近寄ると優しく囁いた。
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