セカンドマリッジ ~病室で目覚めたら、夫と名乗るイケメン社長との激甘夫婦生活が始まりました~
「清塚志歩さん。実はね、あなたのご主人には別の場所で待機してもらっています。今のあなたの状態を把握するためにも、彼にもここに同席してもらっていいですか?」

 志歩は驚きつつも、今の自分には絶対に必要なことだと思い、はっきりと答える。

「お願いします」

 医師が看護師に指示を出してから間もなく、先ほどの美しい彼が入室してきた。やはり見覚えはない。

 これだけきれいな人なら一度見たら忘れなさそうだが、どれだけ思い返しても思い出せない。

 戸惑いの残る瞳で隣に座る彼を見れば、優しく微笑みかけられた。

「清塚(さとる)です。一応、あなたの夫です」

 自己紹介をさせている状況に心苦しさを感じながらも、志歩も夫だという悟へ自己紹介をする。

「水……」

 うっかり旧姓を名乗ろうとして思いとどまる。その名乗り方は彼をとても傷つけるはずだ。

 とはいえ、清塚を名乗るのには違和感があり、志歩はしかたなく下の名だけを名乗る。

「志歩です。先生から聞きました。すみません。覚えていなくて……」
「謝らないでください。あなたが目を覚ましてくれて本当によかった。僕のことは気にしなくていいから、今は自分のことだけ考えて」

 優しい言葉と表情に胸が温かくなる。

 仕事柄、今の志歩よりも重度の記憶障害の患者と接する機会は幾度となくあったが、いざ自分がこんな目に遭ってみるとあまりにも心もとない。とても大きな不安に駆られる。

 そんな状態の今、悟の気遣いは志歩の心の奥深くまで染み込んできた。

「ありがとうございます」

 初対面としか思えない夫と微笑み合う。たったそれだけのことが、志歩を随分と励ましてくれた。

 そこからは医師の誘導で事故のことや、志歩に今ある記憶について話していく。

 初めは緊張していたものの、医師も悟もやわらかい空気を作っていてくれたから、自然に話すことができた。

 そうしてわかったのは、どうやら志歩の記憶は、俊也と会ったあの時を最後に途切れてしまっているらしいということだった。
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