セカンドマリッジ ~病室で目覚めたら、夫と名乗るイケメン社長との激甘夫婦生活が始まりました~
 それから時計の長針が半周ほど進み、ついに迎えた退勤時刻。私服に着替えた志歩は加奈と共に病院を出る。

 軽く会話をしながらも、周囲をきょろきょろと見回せば、右前方に見覚えのある人物を見つけた。

「志歩様。お迎えにあがりました」

 志歩に向かってお辞儀をする彼は悟の秘書。悟ではなく秘書が迎えに来ているのは、悟が仕事で抜けられないからだ。そのことは事前に悟から連絡をもらっている。

「ありがとうございます」

 志歩もお辞儀を返してから、視線を隣の加奈へと移す。

「加奈、行ってくるね」
「ん、頑張って。ちゃんと本心で話してくるんだよ。私は家で待ってるからね」
「ありがとう、加奈」

 笑顔で加奈に手を振り、彼女とはその場で別れた。

 秘書に促され、近くに止められていた車へと乗り込む。その車を運転をするのは秘書ではなく、専属の運転手だ。

 志歩は運転席側の後部座席に座り、秘書は助手席に座っている。後ろに一人で座っている状態では何か話をするという雰囲気にもならず、志歩は動き出した車の窓から外の景色を眺める。

 次々と移り行く景色は今の志歩には何の刺激も与えてくれない。悟との再会が目前に迫っていると思うと勝手に緊張が高まっていく。

 加奈に言った通り大丈夫だとは思っているが、最初に顔を合わせる瞬間が怖い。うっかり悲しい表情でも浮かべようものなら、優しい悟は志歩のために離婚を拒否してしまうかもしれない。

 志歩はちゃんと普通の態度で悟と向き合えますようにと願いながら、窓の先に思い浮かべた悟の姿を眺め続けていた。
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