セカンドマリッジ ~病室で目覚めたら、夫と名乗るイケメン社長との激甘夫婦生活が始まりました~
 透き通るような肌に高い鼻筋とヘーゼルアイ。瞳に浮かんだ涙すら美しく、その姿はまるで物語の中の王子様のよう。

 しかし、王子様が志歩の名を呼ぶのもおかしな話だ。だとすれば、天使が迎えに来たのだろうか。

 そんなことを思うも、彼の格好は天使のそれでも、王子様のそれでもない。濃紺のスーツはどう見ても現実世界のもの。

 志歩は今の状況がまったくつかめず、ひどく混乱する。

 この美しき人に訊けばわかるだろうか。

 しかし、随分と取り乱しているこの人に訊ける雰囲気ではない。

「志歩さんっ、よかった! 本当によかった!」

 彼はぼろぼろと涙を流している。

 どうして見知らぬ人が志歩のために涙を流しているのだろうか。

 その疑問の答えはわからないが、ここがどこなのかという答えは彼の次の言葉が教えてくれた。

「すぐに先生を呼ぶから」

 先生と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、教師でも、政治家でも、作家でもなくて、医師。

 作業療法士として働く志歩にとっては、先生と言えば医師だった。

 この白い部屋や、自分が横たわっている状況も併せて考えれば、ここが病室なのだと理解できる。

 おそらく階段から落ちて意識を失ってしまったのだろう。そうしてこの病院に運び込まれたに違いない。

 まだぼーっとする頭でそんなふうに状況を整理していれば、ほどなくして医師と看護師が志歩の前に現れた。
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