セカンドマリッジ ~病室で目覚めたら、夫と名乗るイケメン社長との激甘夫婦生活が始まりました~
「水瀬さん。まだ混乱しているとは思いますが、覚えている範囲で構わないので、階段から落ちた経緯をもう少し詳しく聞かせてもらえますか?」

 これは事情聴取というものだろうか。もしかしたら事件性がないか確認したいのかもしれない。

 志歩は「はい」と答えながらも、事情が事情なだけに簡単には言葉にできず口ごもる。

 しばしの沈黙を挟み、一度呼吸を整えてから、重い口をゆっくりと開いた。

「三日前? えっと土曜の夕方に……交際相手……の家に一人で行きました。そこで交際相手と少し揉めてしまって……彼をつかんでいた手を振り払われたはずみで、アパートの外階段から落ちました。落ちた後のことはわかりません。落ちたことだけ覚えています」

 こんな説明でいいのだろうかと不安げに医師に目を向ければ、医師は大丈夫だというように笑みを向けてくれる。

「わかりました。ありがとうございます。意識が戻ったばかりなのに、いろいろと質問をしてすみませんね」
「いえ、大丈夫です」
「できればこの後にMRIで脳の状態を見たいので、予約が取れたら検査をしましょう」
「わかりました」
「また伺いますから、それまではゆっくり休んでいてください」

 医師はそう言い残し、美しき人を連れて病室を出て行った。

 結局、『清塚』と呼ばれた理由も、美しき人の正体もわからずじまいだったが、看護師から病室のことや今後のことなどいろいろと話を聞いているうちに、その疑問はどこか遠くへと追いやられた。
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