セカンドマリッジ ~病室で目覚めたら、夫と名乗るイケメン社長との激甘夫婦生活が始まりました~
「謝らなくていい。やっぱり何も悪くないから謝らなくていいよ」

 悟の声はどこまでも優しい。志歩を責める空気は少しもない。

 でも、優しくされると涙が余計に溢れてくる。

「泣いたりしてごめんなさいっ。好きじゃないのに。もうあんな人好きなわけないのに、どうしてっ……」

 必死に涙を止めようとして、それでも止めららない志歩を、悟はひょいと持ち上げ、己の膝の上へと乗せる。

 そのまま志歩をグッと抱き寄せ、背を優しく撫で始めた。

「いいよ。好きなだけ泣いていい。記憶を失くしてから、きっと今日までつらい気持ちと向き合える時間はなかったよね。今、初めて向き合えているんでしょう? それは志歩さんに必要なことだよ。だから、何も我慢しなくていい。全部吐き出していいよ」

 まったく久枝の言う通りだ。志歩の不安な気持ちを悟は受け止めてくれる。

 泣いてはいけない、苦しさを滲ませてはいけないと虚勢を張っていた心が、悟の温かさで解きほぐされていく。

「ずっと、ずっと一緒だったんです。いつも楽しくて、幸せだった……でも、段々会えなくなって、冷たくなって……最後は、もう終わりだって、邪魔だって……」
「うん、つらかったね。悲しかったよね」

 そう、志歩はつらかった。悲しかった。大切な人を失ったことがとても。

 でも、一緒に過ごしていた頃は本当に楽しかったのだ。その思い出が今はつらい。

「全部、全部なくしたい。どうせ記憶を失くすのなら、彼のことを全部忘れていればよかった。悟さんのことだけ覚えていたかったっ……それなのに、どうしてっ」

 苦しい胸の内を吐露すれば、志歩を抱きしめる悟の腕の力がより一層強くなった。

 体全体で悟の存在を強く感じ、それが志歩の心を慰めてくれる。不安で、不安で、どこかに飛んで行ってしまいそうな心を悟のもとに繋ぎとめてくれる。

 悟は志歩の涙が止まるまで、ずっと抱きしめて離さず、寄り添っていてくれた。
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