セカンドマリッジ ~病室で目覚めたら、夫と名乗るイケメン社長との激甘夫婦生活が始まりました~
 翌日、悟の運転でやって来たのは関東にあるグランピング場。たくさんの木々が生えた森の中に造られたその施設は、自然を身近に感じることができて、都会の喧騒を忘れさせてくれる。

 グランピングというと、キャンプが豪華になったものくらいの認識でいた志歩だが、実際に施設を見てみるとその贅沢ぶりに驚く。

 ウッドデッキ上に設置されたドームテントの中はとても広く、ダブルベッド二台とソファーが置かれていてもまだまだ余裕がある。テントの隣のコテージには、バスルームやトイレが完備されており、ホテルと比べてなんら遜色はない。いや、こちらの方が豪華とまで言えよう。

 グランピング施設なだけあって、バーベキューをするのに十分な設備も用意されている。シンクに、グリルに、十分な広さのテーブル。食事もゆったりと楽しめそうだ。

 志歩と悟は一通りテント内やキッチンを見て回ると、森の散策へと出かけた。

 道なりに植えられた街路樹とは異なり、面で植えられた木々の中を歩くと、目だけではなくて、耳や鼻、さらには肌でも自然を感じられる。

 さわさわと木がそよぐ音に、清々しい森の香り。夏場でも少しひんやりと感じる空気がとても気持ちいい。

 賑やかな場所は楽しくて好きだが、こういう静かな場所を悟と二人でゆっくり歩くのもいいものだ。とても穏やかな気持ちになれる。

 思いきり深く息を吸って、自然を味わう。

「いいですね。なんだかとても癒されます」
「そうだね。こういうところにいると、心が凪いで落ち着いた気持ちになれるよね」

 その通りだと頷く。心の中には少しの波風もなく、余計な思考も浮かばない。この自然をただただ五感で楽しんでいる。それは究極の贅沢と言えよう。きっとどんなに煌びやかな城で過ごすよりも、こちらの方がかけがえのない時間だと思える。

 志歩はそんな極上の時間を悟と共に楽しむ。

 ゆっくりゆっくりと歩き、時々目についた動物を観察しながら、道を進んで行く。とても心地のよい時間に、志歩は自然と心を解きほぐされ、気づけばいつもよりも悟に寄り添っていた。

 指を絡めて手を繋ぎ、反対の手は悟の腕に絡めている。触れたところから伝わる悟の体温までもが心地よくて、志歩はそっと頬を悟へと寄せる。

 なんとなく視線を感じて、悟の方を見上げてみると、案の定視線が合う。とても優しい微笑みを向けられて、志歩も自然と微笑み返す。なんとも幸せな時間だ。
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