悪辣外科医、契約妻に狂おしいほどの愛を尽くす【極上の悪い男シリーズ】
『お父さんは人の命を救うすごいお仕事をしているの』、『今頃、きっと誰かの命を助けて、ありがとうって言われているわ』――母は誇らしげにそう言って、よく私の頭を撫でてくれた。

 休みの日はほとんどなく、帰ってきてもすぐに急患で呼び戻される父の姿を見ていたら、幼いなりにも納得できた。

 父を待っている人がいる。父にしかできないことがあるのだと。しかもそれは、人の生死に関わることで、とても重要なのだと。

 だが、決して娘をないがしろにしているわけではなく、食卓で顔を合わせた時には、これまでの不在を埋め合わせるかのように質問攻めにされた。

 どんな教科が好きなのか、どんな学校に進学したいのか、友達は何人くらいいて、どのように交流しているのか。

 大学時代、ドイツに留学を決めた時は、本当に心配そうにしていた。

『ひとりで大丈夫なのか?』、『不安になったらいつでも帰ってきていいんだぞ』、それから『ドイツの男には気を付けろ。決してふたりきりになるんじゃない』とも。

 とくに男性との交友関係について気にしていたみたいで、それまでにも何度か『親しい男の子はいるのか?』と尋ねられたことがある。

 とはいえ、小中高とエスカレーター式のお嬢様学校に通い、大学も女子大だった私に男友達などいない。『女友達ばかりだよ』と答えるたびに、父は安堵の表情をしていた。

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