悪辣外科医、契約妻に狂おしいほどの愛を尽くす【極上の悪い男シリーズ】
「はーい」
一応は引き下がってくれた母だけど、病院に足を踏み入れた途端きょろきょろと辺りを見回し始め、落ち着かない様子だ。背が高い医師を見かけては「ねえ、あの人?」と尋ねてくる。
私は「違うわよ」とあしらいながらも、母に影響されてついつい真宙さんの姿を探してしまった。
白衣を着ている彼を見たいという気持ちもないと言えば嘘になる。多分……間違いなく……カッコいい。
「璃子こそ、ちょっとそわそわしてない?」
途端に見抜かれて顔が熱くなる。「お母さんが変なこと言うからっ」とごまかして、受付で手続きを済ませ脳外科の外来に向かった。
母は三年前、軽い脳梗塞を起こした。右手に痺れが出て、すぐに気付いた父が精密検査を受けさせ、早期発見できたおかげで大事には至らなかった。
以来、数カ月に一回のペースで定期検診を受けている。
「この病気さえなければ、世界一周クルーズに行くのに」
母の趣味は旅行。豪華客船に乗って世界一周をするのが夢らしい。
子育ても一段落して、そろそろ――というタイミングで脳梗塞になり、父から『長期の旅行はしばらく控えてくれ』と言われてしまった。
世界一周となれば、何カ月も船旅をすることになる。船内には医者もいるが、手術が必要になるほどの重篤な患者は対処できない。