悪辣外科医、契約妻に狂おしいほどの愛を尽くす【極上の悪い男シリーズ】
 万一の場合は最寄りの港で下船したり、ドクターヘリで搬送したりすることになるのだが、現地に優秀な医師がいるとも限らないし、搬送にどれくらい時間がかかるか……とにかく不安が多い。

「経過がよければ行けるって、お父さん言ってたじゃない。それに、退職したら一緒にクルーズに行くって約束してくれたんでしょう?」

「そうね。その時までに体調を整えとかなくちゃ」

 父が連れ添ってくれるなら安心だ。今忙しくしている分、退職後は夫婦で旅行を楽しんでほしい。

「それにしても、ここは暑いわね」

 母が待合スペースの長椅子に座りながら手をパタパタさせて顔を扇いだ。

 空調の効いた室内は外と比較するとかなり暖かい。加えて、母が着ているミンクとレザーをパッチワーク状に繋ぎ合わせたトップスが暑いのだろう。

「無理してブランド物を着てくるから……。水分は持ってきた?」

「あー、忘れてたわ」

「もう。こまめに水分補給するようにって言われてるでしょう?」

 水分不足は脳の大敵、脳梗塞の原因にもなる。冬だって脱水するのだ。私は「飲み物買ってくる」と立ち上がる。

「ごめんね璃子。いつものアレ、お願い」

 よりにもよってアレ?とため息をつきながらも、私は院内のコンビニに向かう。

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