悪辣外科医、契約妻に狂おしいほどの愛を尽くす【極上の悪い男シリーズ】
 誰にともなく声をかけて、通路の奥へ足を踏み入れる。おそらく物置として使っている場所なのだろう、周囲に人気はなく、静まり返っている。

 細く薄暗い通路が続いていて、数メートル先には曲がり角。角の先を覗き込むと、資材庫らしきドアが左右にふたつずつ。それぞれの部屋を隔てるように通路がある。ボールは真正面の壁の手前に転がっていた。

 あった……!

 無事にボールを発見できた安堵と、関係者に見つかり怒られずに済んでよかったなんて安心感もあり、ホッと胸を撫で下ろした私は、足音を忍ばせてボールを取りに向かう。その時――。

「ねえ、待ってよ。行かないで」

 吐息を混じらせた女性の、官能的な声。背筋が一瞬ぞわりとして、思わず足を止めた。右の通路に誰かいる。

「ダメだよ。人が来る」

 今度は男性の、柔らかな低音ボイスが響く。その声に聞き覚えがあって、私は咄嗟に壁に張りついて身を隠した。

「来ないわよ。だから私をここに誘い込んだんでしょう?」

「話をする場所が他になかったから連れてきただけだ。誘い込んだ覚えはないよ」

 宥める男の声は、主張とは裏腹に甘く優しい。まるで女性の心を撫で溶かすよう。

 声の主にすっかり絆されている様子の女性が、吐息を荒くする。

「いっつもそうやって焦らすんだから。ねえ、次はいつ会えるの?」

「予定、調べておくね」

「そればっかり」

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