身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
 マダムは指にあごを乗せると身をかがめ、エリシアの顔をじっくりと見つめる。その視線が次第に下の方へ落ちていき、ふたたび上がってきたかと思うと、何度も頭から足の先へと移動する。

 ガレスもそうやって、エリシアを眺めてはにやにやしていた。それを思い出したら、落ち着かなくなってくる。

(なんだろう……ちょっと怖い)

 エリシアは身を引きながら、早口で言う。

「でも、大聖堂でなくてもいいんです。教会を訪ねてみることにします。港はどっちの方角ですか?」
「まあ、待ちなよ、あんた。今日はもう日が暮れる。うちに一晩泊まって、明日の朝、若いもんに送らせるよ」
「本当ですか?」

 願ってもない申し出だ。お腹はぺこぺこだし、長い時間馬車に揺られていたから、身体のあちこちに痛みもある。はやくベッドに入って眠ってしまいたい気持ちが強くて、マダムの好意に甘えたくなる。

「でも……、手持ちがなくて」
「金かい? そんなの気にする必要ないさ」
「必要ないって……」
「とにかく中に入んな。あったかい風呂に綺麗なドレスを用意してやるよ」

 エリシアは戸惑いながら、宿の中に入っていこうとするマダムの背中を見つめた。

(どうして、こんなに親切に……)

「ん? なんだい。何か疑うのかい?」

 不機嫌そうに振り返るマダムに、エリシアはすぐさま首を振る。

「い、いえ。でも、今日中に教会に行けたら、それで……」

 エリシアがおずおずとそう言うと、優しそうだったマダムの形相にいらだちが浮かんだ。

「さっきから、でもでもってうるさいねぇ。あんたは修道女になんかならなくても、うちで働きゃ、いい暮らしができるだろうさ」
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