身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
「ど、ど、どういう意味ですか?」

 エリシアは動揺して、きょろきょろと目を泳がせた。すると、視界の片隅に白い服の青年が映った。彼は立ち止まって、けげんそうにこちらを見ている。

(あの服は、司祭様……?)

「あ、あのっ、もう大丈夫ですっ」

 ぺこりと頭をさげ、司祭服の青年の方へ向かおうとしたとき、マダムがいきなり手を伸ばしてきた。

「さあ、つべこべ言わずにおいで。後悔はさせないよ」

 あっと驚いて身をすくめるが、つかまれた腕はぐいぐい引っ張られ、宿の中へ引きずりこまれそうになる。

「やっ、やめてくださいっ」

 叫んだとき、横から白い手がスッと割り込んできて、エリシアを引きとめた。

「マダム、見たところ、こちらの女性は嫌がっているようです。二度と、この場所で強引な勧誘はしないと約束しましたよね?」

 エリシアははっと顔をあげた。さっきまでこちらの様子を見ていた司祭服の青年が、マダムを静かに見つめている。その綺麗な青い瞳には、静かな怒りとでもいうべきか、淡々とした冷ややかさが浮かんでいる。

「サイモンっ! またあんたかいっ。困ってるから助けてやろうとしただけさ。面白くないねぇ」

 マダムと青年は知り合いのようだ。彼女は、チッ! と大きな舌打ちをすると、宿の扉を勢いよく閉めてしまった。
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