身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
 カイゼルから目が離せなくてぼんやり見つめていると、彼がこちらへ手を伸ばしてくる。

「どうしたんですか?」
「エリシアがいないと、どうにも息苦しくてな」

 大きな手のひらでほおに触れてくるカイゼルの声は低く、けれど、どこか照れたように柔らかかった。エリシアは胸の奥が熱くなるのを感じながら、思わず目をそらす。

(これは……どうしたらいいのかしら……)

「あの……」
「なんだ?」

 カイゼルが身をかがめる。必死にそらしているのに、目をのぞき込んでくる。

「その……、り、リビア様はご回復されてるのでしょうか? 薬ができたら、一番に私が持っていって差し上げたいです」

 カイゼルとの間にある落ち着かない空気を振りはらうように言うと、彼はあきれた顔をして腕を組んだ。

「いまだに発熱を繰り返し、眠り続けているようだ。ベルナンには早急に対応するよう話してあるが、もう一度催促しておこう」
「あっ、ありがとうございます。リビア様は毎日看病に明け暮れておられたので、ひどくお疲れなのだと思います。お目覚めにならないのは、ゆっくり体を休めておられるのかもしれませんが、早いご回復をお祈りしています」
「祈る……か。おまえは修道女になりたいのだったな」

 カイゼルはぽつりとつぶやいた言葉に迷いをにじませると、そのまま机の方へ戻っていく。

(何か……お気にさわったのかしら)

 エリシアはしばらくその場に立っていたが、彼が何やら書き始めたのを見ると、静かに執務室をあとにした。
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