身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
 エリシアはすぐさまトランクに聖女のローブを丁寧にたたみ入れると、髪を一つにまとめて馬車へと急いだ。

(やっと、シムア教会に戻れるわ)

 はやくルルカやマルナに会いたい。それだけじゃない。シムアのエルダ様やお姉さまたちにも。

 故郷であるフェルナ村を出てから、毎日が思いがけないことの連続だった。宮殿での生活は穏やかで楽しく、カイゼルと離れ離れになるのはさみしい気がしないでもない。けれど、エリシアにとって彼は雲の上の人だった。

 一生、会うことすら叶わないような王太子殿下。少し怖い思いもしたが、今はとても優しい。そんな彼にキスをされたのは驚いたけれど、決して勘違いしたらいけないとも思っている。このまま王太子妃になれるはずもなく、彼のそばで暮らす日々は、エリシアにとって苦しくなるとわかっていた。

(今なら、笑顔で離れられる気がするわ)

 ルイやシルビアにあいさつもせずに去るのはさみしかったが、エリシアは終始、にこにこしながら馬車に乗っていた。カイゼルは気難しい顔つきをしていたが、リビアへの心配もあるのだろう、腕組みをして、じっと宙をにらんでいた。

 ノアム大聖堂に到着すると、ルルカが大きく手を振り、マルナがそれをたしなめる、あいかわらずな姿が見えた。

(よかった。ふたりとも元気そうだわ)

 ふたりの方へ早速向かおうとすると、肩をそっとつかまれる。振り返ると、カイゼルが小さく首を振る。あとにしろ、と言っているようだった。

 仕方なく、エリシアはビクターの案内で奥の部屋へ向かうカイゼルのあとについていった。初めて入るリビアの部屋は、窓から差し込む明るい光が贅沢に感じられるほど、とても質素だった。国を代表する聖女でありながら、清貧そのもので、エリシアはますます彼女のもとで過ごせた日々を尊いものに感じた。

 ベッドに横たえるリビアを、世話係の修道女たちが取り囲み、枕元には司祭のグレゴールと副司祭のサイモンがひかえている。
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