身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
「グレゴール、リビアの具合はどうだ?」

 カイゼルが問うと、グレゴールがゆっくりとこうべを垂れる。

「王太子殿下が薬液を完成させたと聞き及び、昨夜、お声をかけましたところ、穏やかに微笑まれました」
「そうか。早速、薬液を飲ませよう。ビクター、ここへ」

 カイゼルが腕を伸ばすと、ビクターは机の上でトランクを開き、小さな瓶を取り出す。その瓶には、薄黄色の液体が入っている。ノアリエル療養所では、毎日のように使っている薬液で、エリシアにはもう見慣れたものだった。

「ここは、使い方をよく知っているエリシアに任せる。皆はエリシアのやり方をよく見ておけ」

 カイゼルが命じると、ビクターはエリシアのもとへ薬液を運んだ。

「お願いします、エリシアさん」

 エリシアはしっかりうなずくと、両手で小瓶を受け取り、リビアが眠るベッドのもとへと向かった。

 修道女たちが左右に移動し、エリシアの歩く道を開く。その先で眠るリビアは、目を閉じたまま、浅い呼吸を繰り返している。昨夜は軽く微笑んだと言っていたが、いまだ顔色も青白く、消えてしまいそうなほどに弱々しかった。

(薬液が効きますように……)

 エリシアは祈りながら、小瓶の蓋をあけ、リビアの口もとに運んだ。薄く開いた唇に一滴ずつ垂らしていく。

 最後の一滴が小瓶から流れ落ちるのを見届けたエリシアは、固唾を飲んでリビアの様子を見守った。カイゼルやグレゴールたちも同様に、ただそのときが来るのを辛抱強く待った。

 どれほどの時間が経っただろうか。……ふと、リビアのまつ毛が揺れた。

「……リビア様?」

 サイモンがたまらず、声を震わせた。エリシアの胸も大きく拍動した。そのとき、リビアのシワシワのまぶたがゆっくりとあがり、薄灰色の瞳がエリシアを映し出す。

「効いたな」

 安堵と歓喜をにじませた声音で、カイゼルがリビアのもとへ駆け寄る。

「リビアよ、よく耐えた。もう大丈夫だ。安心するがよい」

 力強く話しかけるカイゼルにうなずくように、リビアはゆっくりとまばたきをした。
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