身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
「リビア様がお目覚めになったぞっ」
カイゼルとともに大広間へ戻ると、すでに患者たちは両手を天井に突き上げて、リビアの回復を喜び合っていた。
「どうして知ってるのかしら……」
エリシアがぽつりとつぶやくと、隣でビクターがくすりと笑う。
「おそらく部屋の前で誰かが聞き耳を立てていたのでしょう。民衆は奇跡が起きるのを実は楽しみにしているんです」
「聞き耳ですか……?」
半ばあきれるように驚いていると、さらに大広間の中は騒がしくなり、みんなの目がこちらに向いているのに気づいた。
「見ろっ、エリシア様だぞっ。聖女様のおかげでリビア様が助かったんだっ」
誰かが叫ぶと、ほかの者たちも呼応するように「聖女様だっ!」と騒ぎ始める。
「やれやれ、困りましたね。エリオン、皆に静かにするよう話してきなさい」
次いで、大広間に現れたサイモンが、後ろに控えるエリオンへ声をかける。エリオンが足を踏み出そうとしたとき、カイゼルが彼を遮るようにスッと腕をあげた。そして、冷めやらぬ熱気に満たされる場内へ踏み込んでいく。
「静まれっ! エリシアは聖女ではないっ」
カイゼルは叫んだ。今まで、彼が聖女騒ぎに釘を指すことはなかった。民衆が見えない何かを支えにしていることを許容していたのだ。それをなぜ、今になって否定したのか。
エリシアが息を詰めて見守る中、彼は一斉に静まり返った周囲をゆっくり見回すと、高々と小瓶を掲げた。
「皆には今からこの薬液を飲んでもらう。即効性があり、すぐに効果を実感できるであろう。早いものであれば、明日には家族のもとへ帰れるだろう」
「薬液……だって?」
誰かがつぶやくと、みんなの視線がカイゼルのもとへ向かう。
「そうだ。これは、還炎熱を治す薬だ。リビアもこの薬で回復したのだ」
誰もが聖女の奇跡を信じていた。それがわかるような戸惑いがみんなの顔に浮かぶ。ふたたび、どよめき始める彼らを静めようと、カイゼルは低くうなるような声をあげた。
「時に奇跡は起きる。しかし、エリシアは不思議な力を持つ聖女ではない。ノルディア国唯一の聖女は、マザー・リビアただ一人である! エリシアを聖女と呼ぶことは許さない。そして、王太子であるこの私が、この娘を聖女として認めることは一切ないっ」