身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
 ちょっと首をすくめてみせると、マルナは目を輝かせる。

「ベルナンさんって、薬師の?」
「知ってるの?」
「あたりまえよ。王都で知らない人はいないわ。ベルナンさんのおかげで助かった命はたくさんあるもの。私は祈るだけだから、素晴らしい方だなって思ってたの」
「だけ、なんて言わないでよ。マルナに救われてる人もたくさんいるよ。私だって、マルナやルルカに救われたんだもの」
「エリシア、あなたは優しいわよね。ベルナンさんが助けた命の数に比べたら、私たちはほんの少し……」

 珍しく、マルナが頼りなげにまぶたを伏せた。エリシアは彼女の腕をそっとつかみ、顔をのぞき込むようにして尋ねる。

「マルナはたくさんの命を助けたいの……?」

 マルナのまつげは震えた。もしかしたら、マルナは一生を修道女として終えることに悩みがあるのだろうか。

 エリシアは望んで修道女になろうとしているが、マルナはそうじゃない。親に捨てられ、修道院で育つしか手段がなかった人だ。

「マルナ……」

 そっと名前を呼んだとき、マルナは首を振って笑顔を見せた。

「薬の飲ませ方、私に教えて」

 その笑顔は拒絶だっただろう。だけど、エリシアも微笑んだ。

「うん、一緒に行こう」

 マルナはどうにもならないことを知っている。それはエリシアも同じだ。望んだって、手に入らないものはある。

 振り返ると、ビクターと難しい顔で話し込むカイゼルの姿が目に入った。

(望んだって……届かないわ)

 すぐに目をそらし、マルナとともに歩き出すと、あわててルルカが、「私も連れてってよー」と追いかけてきた。
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