身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?


 すべての患者に薬が行き届いたころ、大広間には、窓から差し込む月の光に浮かび上がる、眠る患者と疲れ切った表情の修道女たちの姿だけがあった。

 マルナが「私たちの部屋に来る?」と小声で尋ねてくるが、エリシアは迷って首を横に振った。彼女は黙ってうなずくと、目をこするルルカを連れて大広間を出ていった。

(カイゼル様はもう帰ったのかしら……)

 エリシアは足音を忍ばせて、大聖堂の扉をほんの少し押し開き、外へと出た。階段下には馬車が停まっている。すぐに階段を駆け降りていき、馬車の中をのぞこうと、つま先立ちになった瞬間、背後からいきなり両腕をつかまれた。

「終わったのか?」
「で、殿下、いきなり何を……」

 エリシアは危うく叫びそうになるのを飲み込んで、そう言う。

「腕に触れるのもいけなかったか?」

 カイゼルは愉快そうに目を細めると、馬車のドアを開ける。

「さあ、行こう。今夜はおまえもゆっくり休め」

 手を引かれて、エリシアは戸惑った。帰るつもりはなかった。

「私……、今夜はノアムに泊まります」

 エリシアはそっと彼の手を押し返す。

「気になるなら、また明日来ればよい」
「……今夜だけじゃありません。もう宮殿には戻りません」
「何を言う」
「リビア様もじきにご回復されるでしょう。みなさんも家に帰れるはずです。そうしたら、私はまたシムアへ戻れます。ルルカやマルナと一緒に帰ります」
「どうしてもか?」
「……私が宮殿へ戻る理由はないんです」
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