身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
***


 あれからひと月。ノアム大聖堂を後にしたエリシアたちは、シムアの教会へと戻り、以前と変わらぬ日常に身をゆだねていた。

 朝は掃除から始まり、子どもたちの笑い声が響く午後、祈りとともに訪れる夜には穏やかな眠りが待っていた。

 忙しくも楽しい日々のなかで、エリシアはふと、あの夜の言葉を思い出すことがあった。

「俺の妻になるのは嫌か?」

 今となっては幻だったのではないかと疑いたくなるようなカイゼルの問いに、エリシアはうまく答えられなかった。この言葉に向き合う時間はいくらでもあった。しかしいまだ、エリシアは答えを迷っている。

「エリシア、お鍋焦げてるよーっ」
「えっ、嘘っ?」

 ルルカの叫び声に驚いて、エリシアはあわててお鍋の中をグルグルと混ぜる。シチューの中に焦げたお芋が浮かんでいる。

(お姉さまたちにあきれられちゃう……)

「エリシアって意外とおっちょこちょいだね」

 にこにこしながら、ルルカが木の器を並べていく。

「ちょっと考えごとしてたの」
「集中力が足りませんよ、エリシアさんっ」

 ルルカがいきなり胸を張り、エルダの真似をする。顔を見合わせ、くすくす笑っていると、「大変、大変よ、エリシアっ!」と、今度はマルナが大慌てで台所に駆け込んでくる。

「どうしたの?」
「何をのんきなこと言ってるのよっ」
「のんきじゃないよ。今ね、シチューが焦げちゃって大変……」
「シチュー? そんなのルルカに任せて、はやくエリシアっ」

 マルナはエリシアの手首をぐいっとつかむと走り出す。
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