身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
「私はエリシアです。エリシア・オルティスと言います」
「良いお名前ですね。では、エリシアさんも熱病にはじゅうぶんお気をつけください」

 エリシアの名前を聞いても、エリオンはまったく表情を変えなかった。田舎出身の男爵の名前など知らないのだろう。わざわざ、伝える必要も感じなくて、エリシアも男爵令嬢であることを黙っていた。

「これから向かうシムアの教会は、患者を受け入れておりませんので、ご安心ください」
「私、小さな頃から大病したことなくて、体だけは丈夫なんですよ」

 腕まくりしてみせると、エリオンはおかしそうに目を細めて笑みを浮かべる。

「頼もしいですね。シムアのエルダさんもお元気な方ですから、気が合うかもしれません」
「エルダさんという方は?」
「シムアは小さな教会です。副司祭のサイモン様はノアム大聖堂にお仕えしながら、時々シムアにいらっしゃいます。ですから、普段はシスター・エルダが修道女たちをまとめているんですよ」

 エリオンがそう言ったとき、潮風が鼻先をかすめる。海の近くへやってきたようだ。視線をあげると、日の沈んだ濃い青色の空に、教会のシンボルを示す金色の聖なる輪が浮かんでいるのが見えた。

「あちらがシムアの教会です。今ごろ、夕食の準備をしているところでしょう。エリシアさんも長旅でお疲れでしょうし、温かい食事を召し上がってください」

 エリオンはにこやかにそう言うと、軽やかな足取りで先を進んだ。
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