身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
***


 馬車がかすかに揺れて止まった。エリシアが窓の外をのぞくと、見覚えのある白亜の壁が見えた。ノアム大聖堂に着いたようだ。

 御者が外から扉を開き、サイモンが腰をあげる。エリシアも続いて馬車を降りると、大聖堂を見上げた。天使の彫刻が優しいまなざしでこちらを見下ろしている。荘厳な聖堂であるにもかかわらず、慈愛に満ちた優しい気配にエリシアは心を震わせると、ようやく辺りを見回す。

「もう、大聖堂の前で待つ方たちはいないんですね」

 初めて大聖堂を訪れたときの人だかりはいまだに覚えている。前も後ろも見えないぐらいに、助けを求める人々で埋め尽くされていた。しかし、今は人だかりどころか、列もなく、大通りは平穏な日常を取り戻しているように見える。

(ずいぶん、病は落ち着いたのかしら)

 入り口へ向かって歩き出すサイモンのあとについていくと、彼が口を開く。

「いま、ノアム大聖堂へ連れてこられる患者は、リビア様を頼るしかない重病の方ばかりなんです」
「ほかの方はどこに?」
「ノアリエル療養所にいます。多くの方はそこで回復されていますよ」
「療養所があるんですか?」
「ふた月ほど前、王太子殿下の指示で、王都のはずれにノアリエルと名付けられた療養所が建てられました。迅速な対応に、多くの方が助けられていますよ」

(王太子って、カイゼル殿下よね。すごく嫌な人だったけど、仕事ぶりはきっと優秀なんだわ)

 王都へ初めて来た日に出会ったカイゼルの顔を思い出しながらエリシアが黙ってうなずくと、サイモンは続ける。
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