身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
 エリオンは手桶へ顔を近づけて鼻をくんくんと鳴らす。

「あ……、アルナの匂いが苦手という方がいらしたので、実は……」

 エリシアは手桶を片腕で抱えると、辺りを見回し、ポケットから取り出した小瓶をこっそりとエリオンに見せる。父の形見であり、大切な御守りであるルーゼの香水だ。

「聖堂で香水を使ったらいけないと、怒られると思って黙っていたんですが、アルナに香水を一滴垂らして使っているんです。それからはアルナの匂いが気にならなくなったって言ってもらえて……あの、サイモン様には内緒ですよ」

 ほんの少し驚いた表情のエリオンに気づいて、声をひそめてあわてて言う。サイモンどころか、エリオンに話したのもいけなかったのではないか。司祭の耳に入ったら、大聖堂を追い出されてしまうかもしれない。

「あの、本当に、おしゃれのためじゃないんです。みなさんが喜んでくれて、それで……つい。もし、香水がいけないなら、改心してやめます。私……、修道女見習いになれないでしょうか……?」

 不安になって、口ごもりながら言い、上目遣いでエリオンを見ると、彼はいきなり声を立てて笑い出す。エリシアがぽかんとすると、すぐに真顔を取り繕いながら、笑いを噛みころして言う。

「香料自体は否定しませんよ。リビア様もいくつも香炉をお持ちになり、来訪者の心をやすらげるためにお使いですから」
「そうなんですね! 安心しました」

 パッと笑顔になると、これまたおかしかったのか、エリオンはくすりと笑う。
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