身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
(えっ、カイゼル王太子……?)

 エリシアの頭の中に、白馬にまたがるカイゼルの姿が浮かんだ。急いでいると、ケガをしたかもしれないエリシアに関心も持たずに立ち去った薄情な男……。大聖堂に至急の用事で来たとなれば、またあのような、周囲に配慮しない言動をするのではないか。エリシアの気は重たくなった。

「殿下をお待たせしてはいけません。誰か、扉を」

 グレゴールの指示で、エリオンがあわてて大聖堂の扉へ駆け寄る。

「司祭様、突然お訪ねして申し訳ありません」

 開いた扉の奥から姿を見せるなり、謝罪の言葉を口にしたのは、見覚えのある青年だった。

(あの人はたしか、カイゼル様と一緒にいた……ビクターさん)

「グレゴール、そこにいたのか。呼び出す手間が省けたな」

 ビクターの後ろから、ふてぶてしい態度で現れた黒髪の青年……カイゼルを目にした途端、エリシアは、戸惑うように目を合わせるルルカとマルナのそばに後ずさり、深く頭を垂れた。

「お急ぎのご様子。すぐにあちらの部屋へ……」
「いや、ここでかまわない。マザー・リビアを連れて帰りたい。呼んでくれるか」

 誘導しようとするグレゴールを遮り、カイゼルは要求だけ口にした。周囲がざわりと波打つ。すぐにカイゼルはわずかな異変に気づき、険しい声を出す。

「リビアに何かあったか」
「隠し立てするつもりはありません。リビア様は還炎熱を患っております。王宮へ連れていくのは難しいでしょう」
「なに……」

 カイゼルは一瞬、絶句したが、すぐに怒りの形相で声を震わせた。

「リビアが還炎熱だと? リビアに代わりはいない。あれほど、気をつけろと言ったではないかっ。どうする気だっ!」
「申し訳ございません……」

 グレゴールのひたいに汗がじわりと浮かぶ。

「謝ってすむ問題かっ。昨夜からルイにわずかな熱が出ている。還炎熱の再燃に間違いないだろう。ルイに何かあれば、グレゴール、おまえは責任を取らなければならないぞっ」
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