身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
 すぐさま、カイゼルの不機嫌な顔が浮かんで、エリシアは迷いをぬぐい去ると、ローブに袖を通した。サラサラとした肌触りのいい絹に包まれると、自身が男爵令嬢であった日を思い出した。

 父が健在だったころは、村娘の中でも一番質のいい服を着て、ルーゼの果樹園が望めるテラスで、裁縫や読書をした。そして、いつかは貴族の男性と結婚するんだと思って過ごしていた。それももう、儚い過去の話……。

「わあ、綺麗。本当に聖女様って感じするっ」

 エリシアはハッとして顔をあげると、ヴェールをかぶせてくれるルルカの背後にある姿見に気づいた。

 長い裾のローブワンピース、肩より長いヴェールに腰まで伸びた黒髪。マルナが首飾りや荒れた手に指輪をつけてくれると、鏡に映る自身が、男爵令嬢でも修道院で働く娘でもない、何か特別な存在になったような気がした。

「リビア様の代理を務める聖女に見える?」

 正絹のローブを着られるのは、リビアの権威を守るためだ。エリシアが身の引き締まる思いで尋ねると、ルルカもマルナも力強くうなずいた。

「エリシアなら大丈夫だよ」
「負けないでね」

(負けないで……か。マルナらしい。カイゼル様を警戒してるんだわ)

 エリシアはほんの少し口もとをゆるめて笑むと、ふたりと手を取り合う。

「行ってくるね、ルルカ、マルナ」
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