身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?



「エリシア……、エリシアはどこ?」

 赤いじゅうたんが敷き詰められた廊下を歩いていくと、大きな扉の奥から愛らしくもか細い声が聞こえた。

「ルイ様、エリシア様は神に祈りを捧げています。もう少しでお戻りに……あっ、エリシア様、よかった戻られて」

 部屋の中へ入るなり、シルビアが駆けつけてくる。

「何かありましたか?」
「ルイ様が本を読んでほしいと。エリシア様のお声がお気に召して、私たちではダメだというんですよ」

 シルビアは困り顔で言うが、ほほえましそうに目もとをゆるめる。

「エリシアー、ご本読んで。うさぎがジャンプするおはなし」

 ルイはパタパタと走り寄ってきて、両腕に抱きしめたうさぎの絵本を見せてくる。丸い瞳はキラキラしていて、素直な光が宿っている。カイゼルには似ても似つかず、兄弟とは思えないぐらい可愛らしい少年だ。

「いいですよ。さあ、ベッドにお戻りになって、お水を召し上がってから」

 ルイはこくりとうなずく。熱はすっかり下がり、このところは部屋の中を歩き回れるようになっているが、食事の量がなかなか増えず、完全に回復するまではもう少しというところだ。

「ルイ様はエリシア様の言いつけを本当に素直にお聞きになって。私ではダメなことが増えてしまいそうですよ」

 自らベッドに入り込むルイを眺めながら、シルビアが冗談まじりに言う。

「ルイ殿下はもともと素直な方ですから、大丈夫でしょう。それに、王妃殿下に先ほどお会いしてきまして、週末には私、ノアム大聖堂へ戻る許可をいただきました」

 ルイの還炎熱が治れば、エリシアが宮殿にとどまる理由はなかった。現に、ユレナもエリシアの看病をねぎらい、こころよくノアムへ帰ることを許してくれた。

「えっ、エリシア様、お帰りになってしまわれるのですか?」
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