身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
カイゼルは歩調をゆるめようとしない。長い裾のローブが足に絡みついて、エリシアは転びそうになりながらついていく。
「あっ、あの……」
どこまでいくのだろう。長い廊下をずいぶん歩いてきた。階段もいくつか上がっただろう。たまらず、声をかけると、ようやくカイゼルは足を止めた。
「おまえの名は、エリシア・オルティスだったな」
「は……はい、そうです」
振り返ったカイゼルを、窓から差し込む日差しが照らす。短かった黒髪はずいぶんと伸びて、目元にかかっている。肌の色もあまり良くないように見えるのは、曇天から漏れる光のせいだろうか……。
「おまえを少し調べさせてもらった」
エリシアはごくりとつばを飲み込んだ。何を言われるのかはわからないが、決して、彼が肯定的に向き合ってくれていないのはわかる。
「おまえはグスタフ・オルティス男爵の娘に間違いはないか」
「……父をお調べになったのですか?」
「ルーゼの香水を持っていると聞いた。その香水はグスタフしか作れない珍しいものだ。シムアの修道女に話したそうだな。香水は『父の形見』だと」
エリシアは息を飲み込む。
「ルルカたちに……聞いたのですか?」
カイゼルはうなずかなかったが、それはいちいちエリシアの質問に返事をしたくないだけで、彼女たちに聞いたのは間違いないだろう。
カイゼルに詰問されたのだろうか。彼女たちが心配でそわそわしたが、彼が発した次の言葉に頭が真っ白になる。
「おまえは気に入らない婚約者から逃げるため、フェルナ村を出てきた」
「……そんなことまでお調べに?」
「修道女になりたいとノアムを訪ねたそうだな。おまえは献身的に修道女の真似ごとをしたようだが、所詮、聖女ではない。王家をたばかったとあれば、グレゴールもただではすまないだろう」
「あっ、あの……」
どこまでいくのだろう。長い廊下をずいぶん歩いてきた。階段もいくつか上がっただろう。たまらず、声をかけると、ようやくカイゼルは足を止めた。
「おまえの名は、エリシア・オルティスだったな」
「は……はい、そうです」
振り返ったカイゼルを、窓から差し込む日差しが照らす。短かった黒髪はずいぶんと伸びて、目元にかかっている。肌の色もあまり良くないように見えるのは、曇天から漏れる光のせいだろうか……。
「おまえを少し調べさせてもらった」
エリシアはごくりとつばを飲み込んだ。何を言われるのかはわからないが、決して、彼が肯定的に向き合ってくれていないのはわかる。
「おまえはグスタフ・オルティス男爵の娘に間違いはないか」
「……父をお調べになったのですか?」
「ルーゼの香水を持っていると聞いた。その香水はグスタフしか作れない珍しいものだ。シムアの修道女に話したそうだな。香水は『父の形見』だと」
エリシアは息を飲み込む。
「ルルカたちに……聞いたのですか?」
カイゼルはうなずかなかったが、それはいちいちエリシアの質問に返事をしたくないだけで、彼女たちに聞いたのは間違いないだろう。
カイゼルに詰問されたのだろうか。彼女たちが心配でそわそわしたが、彼が発した次の言葉に頭が真っ白になる。
「おまえは気に入らない婚約者から逃げるため、フェルナ村を出てきた」
「……そんなことまでお調べに?」
「修道女になりたいとノアムを訪ねたそうだな。おまえは献身的に修道女の真似ごとをしたようだが、所詮、聖女ではない。王家をたばかったとあれば、グレゴールもただではすまないだろう」